2018年12月23日    ご質問にお答えして(14)

 

Q:その物件への出店を中止されるように申し上げる場合の実例を解説希望。

 

※このお問い合わせは ご質問にお答えして(7)『デザインを依頼した場合の作業の流れ』でお話させていただいた中に、

 『賃貸契約前の物件を拝見し、ごくまれにですが その物件への出店を中止されるように申し上げる場合もあります』の実例について、

 HPを閲覧された方から Contact ページのメッセージフォームで ご質問をいただきました。

 

 

 

A:最初は、物件に重大な瑕疵がある場合です。1995年の夏、『割烹の居抜物件を借りて、ふぐ料理専門店を出店したい』とのご依頼を受け、現地調査に伺うと、

 

 大阪市営地下鉄千日前線、北巽駅出入口から徒歩50Mの好立地に、木造2階建ての築浅物件が格安の賃貸条件でテナント募集していました。

店内も綺麗で、特に傷んだ箇所もなかったのですが、2階大広間の間仕切り障子(8帖x3部屋に分割できる)だけが見当たらず、 

 

 立ち合いの不動産屋さんに質問しても、『わかりません。現状のままで貸し出しです。』との事。


口調に違和感を覚えたので、細かく見ていくと、建物全体が東方向へ少し傾いて(間仕切り障子があると垂直方向のゆがみが良く判るので隠したのかな?)おり、

 

 

 

 どうやらその年1月の阪神・淡路大震災でダメージを受けた様子でした。


 その場でご依頼者に『これ以上傾かないように構造補強が必要です。すでに補強工事済みかもしれませんが、

 

 壁の中は確認できないので、不動産屋さん経由で大家さんに問い合わせる事をお勧めします。』

帰ってきた返事が、『なにもしていません。現状貸しでの賃貸条件です。』との事で、悪意を感じ取ったご依頼者は、出店を見送られたようです。

半年後、偶然その建物の前を通りかかると、更地になり、『売り土地』の看板を掲げていました。


 

 次に、プロジェクト予算や工期に無理がある場合です。2001年の初冬、お世話になっているグラフィックデザイン事務所の社長様から、『取引先の広告デザイン会社の幹部が、常連にしていた居酒屋のリニューアルについて

 

 イメージデザインまで作ったのだが、着工予定日がせまってきたので、実施設計の相談に乗ってやってくれないか。』との事で、

 京阪電鉄淀屋橋駅の地下連絡通路から入ったビルの地下街で営業中の居酒屋さんでその方にお話しをうかがうと、出てきたのは手書きの平面図が1枚と、

 

 

 イメージ写真が数枚、ビル側の内装監理室からの全体スケジュール(正月明けの着工まで残り30日)、申し込み諸用紙でした。既存厨房とは離れた位置に新設厨房区画を計画されており、しかも厨房器具配置が白紙状態なので、


 

 『このスケジュールでは厨房区画の移動に伴う(防水、給排水ガス、吸排気、防災設備関連等の)B工事全般を考慮されていませんが・・・』とお答えすると、『この後どのような作業(作業費用も含めて)が必要か?また工事費用は?』と問われ、

 

『厨房計画も含めて設備工事関連の見積もり依頼ができる資料(図面)を確定させた後、

 

B工事業者から出た見積書の承認、発注契約の流れになります。また、白紙状態の現時点ではB工事予算を把握できません。』


 

 

 

 幹部氏、『付き合いのある店舗施工業者から坪単価〇〇ぐらいと聞いているが・・・・』とおっしゃるので、『それはC工事予算のみではないでしょうか。設備計画が白紙のままでB工事も含めた工事概算の意味では無いでしょう。

 

 すると幹部氏、『最善の解決方法はどうすればいいか?』とお訊ねで、『既存厨房をそのままにして、共用通路に面した外装と客席店内の表面替え、それにテーブル椅子の入れ替え位にすると工事予算も全体スケジュールも当てはまるのではないでしょうか。』

 

 幹部氏、『この平面とイメージで予算も含めて施主の了解をもらっているのだが・・・』とあきらめきれない様子。

 

 きりがないので、『スケジュールが厳しい状況ですが、念のため、他の設計施工業者にも相談されたらいかがですか。』と申し上げておきました。

 

 その後、プロジェクトは立ち消えになったようです。

 

 

 最後に、物件の設備的に困難な問題(対策に大きな予算が必要)がある場合です。2005年秋、取引先の百貨店デザイン事務所の代表者からご相談を受けた件は、大阪府庁のすぐ前の好立地で谷町筋に面したコンビニの空き物件に焼肉レストランを新築する計画でした。

 

 『夏にデザイン作業の依頼を受けて、イメージ構築と平面計画まで進めてきたのだが、施主様から12月1日にオープンしたいと言われ、工事期間を逆算すると実施設計期間が1か月を切った。』との事で、

 

 

プランを拝見すると、道路面以外の三方を隣接ビルに囲まれた地上げ跡地で『ウナギの寝床』の軽量鉄骨造の平屋建てコンビニの建物が敷地いっぱいに配置された建物でした。

 


 

 

 『客席テーブルのコンロ配置だけで18口、それに加えて厨房分も含めるとガス容量が気になりますね。既存建物にどんなガスメーターが付いていますか?

 

客席の焼肉はガス又は炭火方式ですか?その場合の排気方法は?三方が隣設ビルに囲まれて、排気臭による近隣クレーム対策(その当時は防臭設備に巨額な費用がかかり、しかも充分な効果が見込めなかった)が必須条件です。

 

それとも電気熱源の無煙ロースター式で排気ダクト無しですか?お施主様に焼肉の方式にこだわりはないですか?』

 

 代表者、『コンビニ跡なのでガスメーターは小さいものだった。厨房機器や焼肉設備一式は施主様手配で別途。厨房業者は、プラン決定後に打ち合わせ予定です。』

 

 私『大至急、施主様を交えて厨房業者と焼肉の熱源、排気方式について打ち合わせが必要です。これは本来、設計作業の最初に検討しておく問題です。』

 

代表者、施主様との打ち合わせに 出店コスト(排気脱臭設備費用含む)を算出した結果、その物件への出店は中止されたようです。

 

 

以上のように、プロジェクトの成否に直接関わる『特に留意する点』を申し上げて、施主様に判断していただくことにしています。

 

※ご質問・ご相談は お気軽にご連絡ください。