2019年3月10日    ご質問にお答えして(15)

 

Q:『その物件への出店を中止されるように申し上げる場合もありますが、それを押して成功に結び付いた件』の実例を解説希望。

 

※このお問い合わせは ご質問にお答えして(14) その物件への出店を中止されるように申し上げる場合の実例について

 

 HPを閲覧された方から Contact ページのメッセージフォームで ご質問をいただきました。

 

 (お施主様が大儲けをした成功例のため、税法上etcの迷惑が掛かるリスクを避ける意味で古い年代の実例を上げさせて頂きます。)

 

 

A:誰もやらなかった事、やろうとして諦めた事を(熱意と工夫、お金と手間etcで)押し切って実現させると、トレンドの発信源を創る事ができ、一人勝ちのトップランナーになれます。

 

 

 

 実例の最初は、プロジェクト進行途中にイレギュラーがあった場合です。1985年の暮、『自社店舗で販売しているイタリアンファッションブランドのお客様に、その服を着て遊びに来ていただけるレストランバーを作りたい』

 

 とのご依頼を受け、現地調査に伺うと、心斎橋筋商店街から東へ徒歩200Mの好立地に、鉄骨造3階建ての事務所物件(延べ床面積580㎡)でした。

 

 打合せ及び設計期間で約4ヶ月後、設計図書に基づく見積もり金額もOKをいただき、解体工事スタート。

約2週間後、スケルトン状態になった現場を見たお施主様が突然、『この広々とした空間を生かした平面計画に変更したい。厨房の位置、WCの位置も含めて再検討したい。』との事。

 

  がらんどうになった現場で床や壁にチョークでバミリながら、お施主様と施工管理担当者を交えて丸3日間程打合せをしたのですが、

 

 私が『この変更レイアウトを元に実施設計、修正見積書を作成するまで10日間下さい。』と申し上げたところ、

 

 お施主様『10日の間にまた別のアイデアが浮かんで来る(気が変わる)と思う。実施設計も修正見積も必要ないので床や壁にチョークで指示していき、その都度ひらめいたデザインを議論を重ねた上で取り入れる(イタリア式、というらしい)形式で工事を進めてほしい』と要望されました。

 

 『そのやり方では工期をコントロールできません。また、工事費も出来高を全額お支払いいただく事になります。』とお答えすると、『もちろん了解』との返事。

 

  私は、『収拾がつかなくなるのを防ぐために、基本的なルールとして、出来上がったものや発注済のものを覆すようなアイデアは検討する以前に止める。工期については完成時イコール引き渡し日とする。ただし、完成1週間前に施工管理担当者と協議の上で引き渡し日を決定する。』

 

  お施主様『なるほどそれ位のシバリは必要だ。工期や工事費を暴走させないため、理にかなっている。OK!』との事で、工事を再開しました。

 

 私の役目は本来ならば週に一度の定例会議のみ、となるところを毎朝工事現場入りして、お施主様と意見を交換、浮かんだデザイン、アイデアを工事的に可能かどうかを施工管理担当者と打ち合わせ、製図道具をを現場事務所に持ち込み、施工図やラフスケッチを作成、発注という流れになりました。

 

  工事の騒音に負けない大声と身振り手振りでディスカッションする姿に、遠巻きで見ていた各職方さんまでが乗ってきて『こうしたらどうですか』等、現場途中からは提案するようになり、当初設定より半月遅れの7月初旬、何とか完成し、工事費も約15%UPに納まりました。 

 

『イタリアの田舎家』と後付けのコンセプトとともに、7/7のグランドオープン後は連日の大入りで『夜遊びのステイタス店、デートコースの最後に行く店』と大評判となり、つられて立地のブランド感性までも上がり、『鰻谷通り「オシャレな大人の街」』としてファッション誌やタウン誌を賑わせました。 

 

 

 

2ヶ月後、私自身にも恩恵があり、『あの店を作った人物にまかせたい』との評価で、他のお客様からイタリアンレストランの設計依頼を受け、『ローマの下町食堂』のコンセプトで繁盛店を作らせていただきました。

 

余談ですが さらに1年後、すぐ近所の天王寺区に、デザインをコピペしたプールバー(〇園坂〇球倶楽部)が業界誌『商〇建築』に掲載され、お施主様が『こんな近場なのにパチモン作ってどうするの?廻りで止めたげる誰かおらんかったん?』と苦笑いされていました。(すぐに閉店したようです)

 

 

  次に、物件の建築構造、設備的に困難(対策に大きな予算が必要)な問題がある場合です。。1989年の夏、『郊外で貨物コンテナを組み合わせて営業しているカラオケBOXを、繁華街で開業したい。』

 

 とのご依頼を受け、現地調査に伺うと、難波の高島屋大阪店から東へ徒歩350Mの立地に、Vコマーシャルで有名なレジャービルの広大なワンフロアの地下物件(床面積660㎡)でした。

 

 お施主様とカラオケ業者の方にお話しをうかがうと、出てきたのは方眼紙に手書きの平面プランが1枚と、『郊外型店舗の貨物コンテナの代わりにプレハブ冷蔵庫を組み立ててカラオケルームにする』との趣旨で、カラオケルーム以外のすべての環境計画、設計のご依頼でした。

 

 早速たたき台の平面図を作成し、諸官庁へのヒアリングに行くと、南警察署では『この営業形式は、「深夜の酒類提供店」と「区画席飲食店」の2点で風俗営業になる。建物自体に建築基準法、特に消防法での適法性を求められる。』

 

 建築指導課や消防局予防部指導課では『この建物は、戦後すぐの混乱期から無許可で建築、増改築を繰り返して現在に至るもので、「既存不適格」として、ビル側に消防設備等の改善指導中のため、その建物の地下で、しかも100㎡以上の大面積での風俗営業などあり得ないこと』と一蹴されました。

 

 そのままをお施主様に報告すると、『賃料の㎡単価が安い理由が判ったので、あとは適法化するのにどれ位の費用が掛かるかだ。』と、レジャービルオーナーとの折衝の場に私を同席させて善後策を話し合いました。

 

 幸いにもビルオーナー側も代替わりで若社長が出席され、消防設備更新の必要性を考えておられ、適法化しないと200坪のテナント契約が決まらない事もあり、スプリンクラー設備や自火報設備等、前向きに検討される事になりました。

 

 改めてお施主様とカラオケ業者の方を交えて実施設計に向けての打ち合わせを開始すると、『200坪のワンフロアにカラオケルームを22室配置し、1室あたり内装費、演出照明、監視カメラ、エアコン、換気扇、家具込みで平均単価100万円(郊外型カラオケボックスでの納入実績値)でカラオケ業者が請け負い、

 

 カラオケ機器はリース契約としてカラオケ業者の持ち込み。1曲当たりいくらのコイン売り上げを毎朝カウントして施主様と按分してリース代にするので、お施主様の投資額は@100万x22+その他環境工事等1000万~2000万で 合計3000万~4000万円のプロジェクト予算』との事。

 

 私は、『ちなみにエアコンや換気はどんな方式で?』とお聞きすると、『各個室内での不祥事防止用にアルミサッシュ窓を付けるので、そこにウインド型エアコンと窓型換気扇を付けて(郊外型カラオケボックスの貨物コンテナで実例あり)まかなう。』との返事。

 私は少々驚き、『えっ夏場はどうするんですか?』と重ねてお聞きすると、やりとりを聞いていたお施主様が、『どういうことなの?わかるように説明してほしい』と問われ、

 

 平面図を示し、『たとえばこのNo,5号室(6畳ほどの広さ)の定員は6名ですよね。お酒を飲んで体温が上がった6人がこの部屋で唄って騒いで、しかもタバコを吸う。この状態で22部屋から出る熱量とタバコの煙が200坪のワンフロアに充満したら、どうなるでしょう?』

 

 カラオケ業者の方『そのためにフロア型エアコンを要所に設置する。様子を見ながら、送風機も配置する。』それを聞き不安に思ったお施主様から、『じゃあどうすれば正解?』と問われ、『200坪フロアの天井全体にダクト工事をし、吸排気ともに各部屋から直接ビルの外へ繋ぎます。エアコンも、ビルマル方式にして排熱を外へ出します。』

 

 お施主様、『全部でいくら掛かる?』

  

 私『延べ床200坪の商業ビルを新築し、建築本体工事はゼロで済むが空調吸排気や電気工事は既存に何も無いので費用が掛かるとお考え下さい。防災関連工事についてはこれから消防署の指導を受けて全容が決まりますが、大面積店舗の風営法がらみなので避難時の安全対策などでしっかり指導が入るでしょう。』

 

 初期のボウリングブームに投資、成功した経験を持つお施主様、『床面積が小さいので坪単価60万~70万として掛ける200坪、空調設備、電気、防災関連で約4割か・・・・プロジェクト予算が3~4000万という話はどこへいったんだ?』

 

 青くなったカラオケ業者の方、『何か方法を考えます・・・・』とおっしゃるので、

 

 私は『今すぐこの場でそんな大きな金額について結論を出す事も無いでしょう。今日のところはこれぐらいにして持ち帰り、各専門業者に相談して、もう少し裏付けのある話で次回の打ち合わせとしませんか?』

 

 数日後、お施主様から呼び出しを受けると、『君に全部まかせたい。カラオケ業者も君のツテで、扱い易い業者に替えてくれてもかまわない。』と数々の成功経験者らしい、思い切った決断のお言葉。

 

 私は『とても光栄です。しかし、今回の事業計画(全国に先駆けた、都心型カラオケボックス)を持ち込んだカラオケ業者の方を除け者にしてしまうのは面子をつぶすし、恨みも買います。お施主様から良く言い聞かせた上で、当初の請け負い範囲から空調換気設備工事のみを分離し、あとはコスト面のみに留意しながらこの方に発注なさって下さい。』

 

 その後の打ち合わせからはとても順調に進み、設計完了。総工事費も当初予定の倍以上に膨らみましたが、お施主様の『よっしゃ!』の一言で決定。着工から1ヶ月半、11/2にグランドオープン。

 

 当初1か月ほどは認知度も低く、客席の稼働率は5割前後でしたが、12月の忘年会、翌春の新年会シーズンには22部屋が全て稼働し、結構長い客待ち時間も発生。さらに稼働率は上昇を続け、90年の夏休みに入って大ブレイク。100%稼働のままで客待ちリストが朝まで消えず、お客様が怒って帰る始末。

 

 お施主様から急遽呼び出しがかかり、『吉本ナンバ花月すぐ横に持っている自社ビル(超好立地)の全テナント(盛業中の他業種ですが直営店舗)を廃業して、2号店を作る!』とご依頼いただきました。

 

  私も、『濡れ手で粟の大繁盛』と言う現場を目の当たりにして、とても誇らしい思いをしました。

 

 

 

 

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